東京高等裁判所 平成7年(ネ)60号 判決 1997年3月27日
和歌山県和歌山市黒田七五番地の二
控訴人
財団法人雑賀技術研究所
右代表者理事
中西豊
和歌山県和歌山市神前一〇九番地の一一
控訴人
雑賀慶二
右両名訴訟代理人弁護士
藤田邦彦
東京都足立区千住一丁目二三番二号
被控訴人
株式会社丸七製作所
右代表者代表取締役
阿部梅子
右訴訟代理人弁護士
及川昭二
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して金五二八万〇五〇〇円及びこれに対する昭和五二年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じて三分し、その一を控訴人らの連帯負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
この判決は、被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
一 申立て
控訴人らは、「原判決中、控訴人ら勝訴部分を除きこれを取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
二 主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示(四頁二行ないし三二頁二行)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一八頁一〇行目の「に増加している。」の次に改行して、「控訴人財団が被控訴人の主張する文書を配付した目的は、財団設立の目的の一つでもある工業所有権尊重の思想普及が第一義であり、東洋精米機とは何の関係もないことである。また、当時の控訴人財団の技術供給先は二〇数社あり、それらから収受するロイヤリティーのうち東洋精米機からの分は僅かでしかなく、控訴人財団が東洋精米機と密接な関係にあったということはない。」を加える。
2 同二〇頁末行の「その余の郵送の事実は否認する。」の次に改行して、「被控訴人主張の文書は、控訴人意匠権(控訴人雑賀が権利者である登録番号第二三一三九三号意匠権)のみの抵触を指しているものではなく、被控訴人製品(原判決別紙目録一の(一)ないし(四)記載のマルシチ石抜撰穀機)が控訴人意匠権以外の他の特許権等も無断で実施していることも記述していたところ、被控訴人は、後記六3掲記の調停成立により今後製造販売しないという約束に違反して、被控訴人旧製品(昭和四〇年頃、被控訴人が製造販売していた石抜撰穀機)とほぼ同じ意匠からなる「変形八面形で、正面には内枠に三分した操作区画がなく、背面及び側面が無模様でない形状の石抜機」の製造販売を行っていた。更に、右文書には、被控訴人製品が特許第四〇〇五四〇号の特許権者の承諾を得ることなく実施し、権利侵害していることも含めて記述している。したがって、右文書の記述内容は事実に基づくものである。」を加える。
3 同二二頁二行目の「しない。」の次に改行して、「すなわち、右書面に記されている事柄は、控訴人財団が被控訴人製品の販売業者である岡崎商店及びその設置先に対し、特許第四〇〇五四〇号の専用実施権に基づく警告書を送付したこと、及び、同商店では「大丈夫」と言われて販売していた被控訴人製品が右権利に抵触していたことなど、被控訴人に騙されていたことを悟ったこと、及び、これまでの非を詫びられても遅いことなどを抽象的に記しているものであって、それらはすべて事実に基づくものである。」を加える。
4 同二六頁二行目の「製品についても製造販売しないとの趣旨で成立したものである。」の次に改行して、「右調停において被控訴人が製造販売しないと約束した被控訴人旧製品の中には、本件意匠権侵害訴訟の判決において、控訴人意匠権との相違を指摘されている「変形八面形で、正面には内枠に三分した操作区画がなく、背面及び側面が無模様でない」意匠の石抜機も含まれていた。」を加える。
三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 当裁判所は、主文第二項記載の限度において被控訴人の請求を正当と判断するものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の理由説示(三二頁六行ないし一〇五頁三行)と同一であるから、これを引用する。
1 原判決三二頁八行ないし四四頁六行を次のとおり改める。
「1 原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇〇号証、乙第四〇号証、成立に争いのない甲第一一六号証、甲第一一七号証、甲第一三九号証の一、二、甲第一四〇号証ないし甲第一四五号証、甲第一四七号証、甲第一五〇号証、甲第一五一号証、甲第一五二号証の二、甲第一五三号証ないし甲第一六一号証、乙第八二号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一四八号証、甲第一四九号証、乙第三七号証の一、二、乙第三八号証の二ないし八、一八、乙第四七号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第三八号証の九ないし一七、控訴人雑賀慶二本人尋問の結果(当審)により原本の存在及び成立を認める乙第八三号証、控訴人雑賀慶二本人尋問の結果(原審。但し後記認定に反する部分を除く)、並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 控訴人雑賀は米穀商兼精米機の製造販売業であった先代の次男として生まれ、昭和二四年に中学を卒業後、実兄和男と共に家業を手伝うようになり、和男が精米機の販売を担当し、控訴人雑賀は精米業に従事する傍ら、精米技術と加工技術の研究に取り組んでいた。控訴人雑賀は昭和三六年に特許登録第四一七五五八号外にかかる石抜撰穀機を発明し、それを機会に同年一一月、食品加工機及び農業機械の製造並びに販売等を目的とする東洋精米機を設立し、家業の雑賀精米機店の事業は同社に引き継がれた。控訴人雑賀は東洋精米機の経営は実兄和男に委ね、自身は同社の技術部長等として精米機等の研究開発に専念し、昭和三八年四月には自己の有する工業所有権等の私財を拠出して控訴人財団を設立し、創造技術の追求、発明思想の普及改善等の事業を開始した。
(二) 控訴人雑賀は、東洋精米機の株主であったほか、昭和四八年、昭和四九年当時も昭和五六年当時においても、概ね週に二、三日程度東洋精米機を訪れて技術指導、技術開発に従事し、また昭和六〇年二月には、実兄和男の病気療養に伴い、東洋精米機の代表者の地位に就任した。
(三) 控訴人財団は、控訴人雑賀から、その有する特許権等の工業所有権を譲り受けて権利者となったり、あるいは控訴人雑賀の有する工業所有権を管理しており、控訴人意匠権についても控訴人財団が事実上管理していた。東洋精米機は、控訴人雑賀及び控訴人財団が有している特許権等工業所有権について有償で実施許諾を受け、それを実施した製品を製造販売していた。そして、その実施許諾料は、控訴人雑賀個人の特許権についてのものを含めて控訴人財団に支払われていた。ちなみに、控訴人財団の財産目録の資産の部には、東洋精米機からの昭和四六年度未収金分として約五一一一万円、昭和四七年度未収金分として約五五六五万円が計上されている。また、控訴人財団の昭和四七年度における収入総額約六〇〇〇万円のうち特許権等の実施許諾料収入は約五一九二万円である。
(四) 昭和四九年頃の控訴人財団は、常勤理事が控訴人雑賀と控訴外小山勇で、他に非常勤理事一名、事務員二、三名の組織であった。
控訴人雑賀は、昭和六〇年に東洋精米機の代表者に就任すると同時に控訴人財団の理事から退いたが、対外的には依然として控訴人財団の会長とか理事長と称しており、控訴人財団が作成したパンフレット等にも控訴人雑賀は会長として紹介されている。
(五) その他、
(1) 東洋精米機は、昭和四一年頃、社外向け広報文書である「トーヨウニュース」で、被控訴人や株式会社村上製作所が控訴人雑賀の有する特許権を侵害していることや、控訴人雑賀が被控訴人に対し断行仮処分を得て執行したことを宣伝し、被控訴人や株式会社村上製作所を非難した。
(2) 昭和四九年二月八日に東洋精米機が大阪で精米機の業者を集めて販売会議を開いた際、控訴人雑賀が被控訴人との間の工業所有権についての紛争の説明をした。
(3) 昭和四九年三月六日に、東洋精米機、控訴人財団及び控訴人雑賀と株式会社佐竹製作所及び佐竹利彦との間で、両者間における工業所有権をめぐる係争問題を解消するための協定が成立しているが、その協定書において、東洋精米機、控訴人財団及び控訴人雑賀は、「(以下三者併せて甲という)」として一括表示され、例えば、佐竹利彦が有していた特許第四〇〇五四〇号について、「特許第四〇〇五四〇号(撰穀機の細粒除去装置)権利に関して、佐竹利彦と甲との間で、次のとおり契約する。1、 佐竹利彦は、上記権利の専用実施権を雑賀技術研究所に設定する旨登録する。」と記載されている。また、右の者ら間において同年五月九日付け合意書が作成されており、株式会社佐竹製作所は東洋精米機の特註品を仕入れて販売する、控訴人財団及び控訴人雑賀は、東洋精米機が右特註品を納入できるようになるまで、株式会社佐竹製作所に対し、その有する特許権の実施を許諾する、などという内容の取決めをしているが、控訴人雑賀が東洋精米機、控訴人財団及び控訴人雑賀の「全権」として合意書に調印している。
(4) 昭和五一年一一月に和歌山県下において東洋精米機が防音精米機の発表会を開いた際、東洋精米機社長の雑賀和男に続いて、控訴人雑賀が説明を行い、その席上、集まった販売店に対し、他社製品を販売しないという内容の契約を締結させようとした。
(5) 佐竹利彦の出願に係る昭和四六年実用新案登録願第七六六五八号・昭和五一年出願公告第三六九三三号(考案の名称「穀類搗精機の無音フレーム」)について、昭和五一年一一月一日付けで、東洋精米機と控訴人財団は共同して実用新案登録異議申立てを行っている。
(6) 控訴人雑賀は、有限会社毛利精穀研究所を債権者、控訴人財団を債務者とする大津地方裁判所昭和四九年(モ)第一〇七号事件において、債務者代表者として尋問された際、控訴人らの有する特許権等を侵害する第三者の製品が売れれば、その分東洋精米機やその他の実施許諾先の実施品の売上げが減少し、控訴人財団の実施料収入も減少することになるので、侵害品について法的手段をとってきた旨陳述した。
(7) 昭和五七年七月二八日に東洋精米機の本社工場で行われた、同社の新製品である精米機「トーヨーエレコン」や「トーヨーカラー撰穀機」の性能公開実演会において、東洋精米機の会社代表者挨拶、右製品の性能公開実演開始に続いて、控訴人雑賀が右製品の開発者として紹介され、同製品の説明を行った。同年八月一日、二日に行われた右製品の性能公開実演会とシンポジウムにおいて配付された「新製品開発の動機と経過(概略)」という参考資料には、「雑賀慶二が発明し、又、東洋精米機が開発及び製品化した加工機器によって精米工業の近代化が始まったと言われていますが、その主な発明品の概要を紹介しますと、…」と記載されている。また右発表会について報道した昭和五七年八月一二日発行の米穀新聞における囲み記事において、控訴人雑賀は新聞記者に対し、「私がエレコンとカラー撰穀機を開発したことになっているが、本当は私がやったのは、全体の一~二%ぐらいで、大部分は、エレクトロメカトロニクスのベテランであるわが社の二名の技術開発部員の研究によるものである。」と述べている。
(8) 控訴人財団は、昭和五七年に、開発者を支援するなどとして、東洋精米機の販売代理店に対し、控訴人財団や控訴人雑賀がかかわっている東洋精米機の新製品(エレコン、カラー撰穀機等)及び近年製品(防音精米機、石抜機等)が他メーカーに渡ったり、その内容が知られないように最大限の配慮をすること、右新製品及び近年製品の模造品を販売しないことなどを誓約させ、その誓約の保証として約束手形を差し入れさせた。
右誓約についての販売代理店との交渉は、東洋精米機の田村専務取締役が当たったこともある。
2 右1に認定した事実、特に、東洋精米機及び控訴人財団の各設立の経緯、控訴人雑賀の東洋精米機における地位及び従事業務の内容等、控訴人雑賀の有する工業所有権について控訴人財団が管理し、東洋精米機が実施するといったことや、東洋精米機の新製品開発等に控訴人雑賀が協力するといったことなどに見られる事業上の密接な協力関係、東洋精米機の製品の売上げを確保することは、東洋精米機と控訴人らにとって共通の目的であり、そのための控訴人らの活動の状況、言動の内容等の各事実、並びに、控訴人財団及び控訴人雑賀は後記四に認定の文書配付等による不正競争行為を現実に行っていたことを総合すると、少なくとも後記の本件不正競争行為が行われた当時、控訴人雑賀において精米機等の研究開発、発明等をし、控訴人財団において控訴人雑賀の有する特許権等工業所有権を管理、保全し、東洋精米機において右工業所有権を実施した製品を製造販売して利潤をあげ、実施料を控訴人財団に支払うという一連の経済活動を共通の目的として共同して遂行する関係にあり、また、共通の利害関係を有するものとして相互に協力し合う関係にあったものであり、控訴人雑賀及び控訴人財団は、東洋精米機と同種の営業を行う被控訴人と実質的に営業上の競争関係にあったものと認めるのが相当である。
3 控訴人らは、控訴人財団は和歌山県で有数の工業所有権思想啓発を目的とする財団法人であって営利的事業や営業行為は行っていないし、控訴人財団が被控訴人の主張する文書を配付した目的は財団設立の目的の一つでもある工業所有権尊重の思想普及が第一義であって東洋精米機とは何の関係もないことであり、また、控訴人財団が東洋精米機から収受していたロイヤリティーは僅かであって、控訴人財団が東洋精米機と密接な関係にあったということはないなどとして、控訴人らは被控訴人と競業関係にない旨主張する。
前記甲第一一七号証、甲第一五四号証、乙第四〇号証、乙第四七号証、成立に争いのない乙第三九号証、乙第四八号証の一ないし六、八ないし一〇、乙第五六号証の二ないし一〇、乙第五七号証、乙第五八号証、乙第六〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第七九号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第四二号証ないし乙第四四号証、乙第四八号証の七、乙第四九号証ないし乙第五二号証、乙第五三号証の一ないし四、乙第五六号証の一、乙第五九号証、乙第六一号証、乙第六二号証の一、二、乙第六三号証ないし乙第六八号証、乙第六九号証の一ないし一三、控訴人雑賀本人尋問の結果(当審)により原本の存在及び成立を認める乙第七五号証、乙第七六号証、乙第七八号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第四一号証、控訴人雑賀本人尋問の結果(原審・当審)、並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人財団の昭和三八年の設立当初から平成三年六月までの寄付行為では、控訴人財団の目的は、工業技術及び発明思想の普及向上のための一般に公開する講演会の開催、工業技術に関する一般に公開する研究設備の設置、その他この財団設立の目的達成のため必要と認める事業とされており、営利的事業は目的とされていないこと、昭和三八年頃、関係者に、控訴人財団の設立趣旨は発明研究の援助、発明奨励などの活動をすることであるとの趣旨の文書が配付され、今日においても、控訴人財団は、工業技術の研究や工業技術者の援護養成などの事業を通じて産業の発展に寄与することを目的とする旨事業説明書で説明されていること、現実の活動においても、各種の工業技術紹介の講演会の開催、和歌山県下産業に対する各種の技術支援、学童、生徒、一般を対象とする技術開発、発明に関する各種の講習会、催事等の開催、和歌山県を初めとする各種公益団体に対する寄付などを行っていることが認められる。
しかしながら、控訴人財団はこれらの公益事業を行う一方で、控訴人雑賀や東洋精米機と密接な関係を有し、少なくとも後記本件不正競争行為が行われた当時、被控訴人と実質的に営業上の競争関係にあったものと認められることは前記1、2に認定のとおりである。また、後記四に認定の配付文書の内容からしても、その配付の目的が工業所有権尊重の思想普及が第一義であるとは認め難い。
なお、控訴人雑賀本人尋問の結果(当審)により原本の存在及び成立を認める乙第七七号証は、株式会社三和銀行南和歌山支店発行の昭和五〇年三月一二日付け証明書であり、同書面には、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの間に控訴人財団の普通預金口座に東洋精米機からの入金はなかったことを証明する旨の記載があることが認められるが、前記1(三)の認定に照らしても、控訴人財団が東洋精米機から収受していたロイヤルティーが僅かであるということはできない。
したがって、控訴人らの右主張は採用できない。
前記甲第一五四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一〇四号証、控訴人雑賀本人尋問の結果(原審・当審)中、前記1、2の認定に反する部分はたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」
2 同六二頁三行目から四行目にかけての「被告雑賀本人尋問の結果」の次に、「(原審)」を加える。
3 同六四頁六行目の「に当たるものである。」の次に改行して、次のとおり付加する。
「控訴人らは、甲第六八号証ないし甲第七〇号証の各一の文書について、控訴人意匠権のみの抵触を指しているものではなく、被控訴人製品が控訴人意匠権以外の他の特許権等も無断で実施していることも記述しているところ、被控訴人は、昭和四一年一〇月二一日和歌山地方裁判所において成立した調停条項により今後製造販売しないという約束に違反して、被控訴人旧製品とほぼ同じ意匠からなる「変形八面形で、正面には内枠に三分した操作区画がなく、背面及び側面が無模様でない形状の石抜機」の製造販売を行っていたこと、また、右文書には、被控訴人製品が特許第四〇〇五四〇号の特許権者の承諾を得ることなく実施し、権利侵害していることも含めて記述していることを理由として、右文書の記述内容は事実に基づくものである旨主張し、控訴人雑賀本人尋問の結果(当審)中には右主張に沿う供述部分がある。
しかしながら、甲第六八号証ないし甲第七〇号証の各一の文書に記載されているものは、特許第六九五四〇号、意匠登録第二三一三九三号(控訴人意匠権)のみであって、それ以外の特許権等についての記載はない。
また、成立に争いのない甲第一三四号証、乙第九〇号証によれば、控訴人雑賀を原告とし、被控訴人を被告とする和歌山地方裁判所昭和四一年(ノ)第六号損害賠償請求調停事件において、昭和四一年一〇月二一日、当時被控訴人が製造販売していた石抜撰穀機(被控訴人旧製品)を製造販売しないことなどを内容とする調停が成立したことが認められるが、調停条項において、「変形八角形で、正面には内枠に三分した操作区画がなく、背面及び側面が無模様でない形状の石抜機」の製造販売をしないという約束がなされたとは認め難いし、控訴人財団の前記文書の配付当時、被控訴人が右調停条項に違反するような石抜撰穀機を製造販売していたことを認めるに足りる証拠はない。
更に、右配付文書には、特許第四〇〇五四〇号の特許権についての記載は全くないし、前記二1(五)(3)に認定のとおり、控訴人財団が佐竹利彦から右特許権について専用実施権の設定を受けたのは昭和四九年三月六日であって、右文書の配付当時は、控訴人財団は右特許権の専用実施権者ではなかったのであるから、右文書に被控訴人製品が特許第四〇〇五四〇号の特許権者の承諾を得ることなく実施していることまでが記述されているとは到底認められない。
したがって、控訴人雑賀本人の右供述部分は信用できず、他に控訴人らの右主張を肯認すべき証拠はない。」
4 同六五頁末行の「右各事実」の次に、「及び証人隆敏夫は原審において、清水式精米機製作所が販売している石抜撰穀機は被控訴人が製造したものである旨供述していること」を加える。
5 同六九頁二行ないし七二頁三行を次のとおり改める。
「4 同4について
(一) 昭和五〇年四月頃、控訴人財団名で、被控訴人主張の原判決添付の別紙五のとおりの内容の葉書を発送したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第八八号証によれば、同号証の葉書は株式会社中央商会宛のものであることが認められる。
(二) 右葉書の書出しには「過日当財団より丸七石抜機等の件で、その販売事実がある場合、それを御連絡いただければ穏便に取計る旨、御通知申し上げて居りました。」と記載されているところ、前記のとおり、控訴人財団名で、昭和四九年一月三一日付けで甲第六八号証ないし甲第七〇号証の各一の文書、同年九月二七日頃、甲第七九号証ないし甲第八七号証の文書がそれぞれ発送されているが、甲第六八号証ないし甲第七〇号証の各一の文書の文面内容からすれば、右の過日の通知とは、右甲第六八号証ないし甲第七〇号証の各一の文書をいうものと推認されなくはなく、右文書には控訴人意匠権についても記述されていることは前記1に認定のとおりである。
しかし、前記甲第八八号証によれば、右葉書には、控訴人意匠権について明示的に記載されていないことは明らかである。右葉書には右書出しに続いて、「然るにそれを無視した販売業者が各地に見られますので当財団では特許制度を知らしめるため、製造メーカーのみならずこれら販売業者に対しても法的手段に訴えることにし、すでに丸七特約店である某商店及びその設置先等に対して権利の行使をしました。同商店では、早速、丸七側に通報したらしいが、結果的に米穀業者に販売し、設置していた丸七石抜機や混米機を一切回収する事になりました。ところが丸七側より交換用に送られて来た最新型と称する石抜機も別の特許権との抵触問題があるため、結局、同商店の負担で全て他商品と据替えねばならず、同商店では約一千万円の損害と信用低下を回避出来ぬ状態に立ち至って居ります。」と記載されているところ、右文面自体からは丸七撰穀機がどのような工業所有権を侵害しているものとして記述されているのか明らかではない。そして、原本の存在及び成立に争いのない乙第八七号証、控訴人雑賀本人尋問の結果(当審)により原本の存在及び成立を認める乙第八〇号証、乙第八一号証(官署作成部分の成立は争いがない)によれば、葉書の右記載は、昭和五〇年一月頃、控訴人財団及び控訴人雑賀から、控訴人財団が有する特許第四〇〇五四〇号の専用実施権、控訴人雑賀が有する控訴人意匠権に基づき、被控訴人製造に係るマルシチ石抜撰穀機の販売中止等の警告を受けた岡崎商店こと岡崎元が、マルシチ石抜撰穀機は特許第四〇〇五四〇号の専用実施権を侵害するものであるとの判断から、控訴人財団及び控訴人雑賀に対し同年二月二二日付け内容証明郵便をもって被控訴人との交渉の経緯等を伝えたり、同年三月五日に同人の子息が控訴人財団を訪れて説明したことを基に記述されているものと認められることからすると、葉書の右文面は、被控訴人製品が控訴人意匠権を侵害していることを記述しているものと断定することはできない。また、右葉書中の「それもひとえに丸七の偽計とも知らず、事実に反する宣伝を信用して当方に非ありとの正邪を反対に見誤ってきたのが原因で、今となって真実を知り、丸七側に騙されていたことを悟るには余りにも大きな犠牲を払い過ぎています。」との記載からも、控訴人意匠権のことが含まれている文面であると読み取ることはできない。更に、右葉書には、「同商店がもっと早期に前回の裁判調書、或いは今回の裁判関係書類を閲覧していれば、丸七側が販売業者を欺き、又、裁判所に対し、虚偽の陳述をしている事実を理解出来ていた筈です。」と記載されているところ、岡崎商店こと岡崎元が控訴人らに送付した前記内容証明郵便中の「一昨日、貴方よりお借りした昭和四一年(ノ)第六号 和歌山地裁の調書を拝見した時、それが全く信じられず、・・・」、「東京地裁には製造販売を廃止したと申立て乍ら(昭和四九年第二五五一号事件綴りにて確認)実際には我々にその型を販売続けるなど、・・・」との各記載、及び前記甲第一三四号証、乙第九〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三六号証によれば、右「前回の裁判調書」は和歌山地方裁判所昭和四一年(ノ)第六号損害賠償請求調停事件の調停調書を、「今回の裁判関係書類」は東京地方裁判所昭和四九年(三)第二五五一号仮処分申請事件の関係書類をそれぞれ指すものと推認され、右文面では、本件意匠権侵害訴訟に関しては触れられていないものと認められる。
結局、右葉書の記載内容から、送付を受けた販売業者において、被控訴人製品が控訴人意匠権を侵害していることを記述しているものと認識できたとは認められない。
成立に争いのない甲第一六六号証中、右説示に反する部分は採用できない。
よって、右葉書の送付行為をもって、被控訴人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布したものと認めることはできない。」
6 同七二頁六行目、七四頁二行目の「証人隆敏夫の証言」の次に、それぞれ「(原審)」を加える。
7 同七七頁六行目から七行目にかけての「被告雑賀本人尋問の結果」、七八頁四行目の「被告雑賀本人尋問の結果」の次に、それぞれ「(原審)」を加える。
8 同八三頁六行目の「4、」を削る。
9 同八四頁一行ないし八九頁一〇行を次のとおり改める。
「8 ここで、控訴人らの主張について検討しておくこととする。
(一) 当事者間に争いのない控訴人らの主張2の事実、前記甲第一三四号証、乙第九〇号証、成立に争いのない甲第一三一号証ないし甲第一三三号証、甲第一三五号証、乙第三号証、乙第五号証、乙第二四号証の一ないし四、原本の存在及び成立に争いのない甲第一三〇号証、乙第四号証によれば、控訴人雑賀は被控訴人に対し、被控訴人の製造販売している丸七石抜撰穀機は控訴人雑賀の有している出願公告に係る特公昭和三八-五二五五号及び実公昭和三八-一三九五〇号の仮保護の権利を侵害することを理由として右製品の製造販売の中止等を求める昭和三八年七月三〇日付け警告書を送付したこと、これに対し被控訴人は、右製品の製造を中止し、既販売分についても回収する旨同年八月二日付け書面で回答したこと、控訴人雑賀は被控訴人が右書面で確約したことを履行していないとして、同年一一月一一日に再度警告書を送付したりしたこと、控訴人雑賀は被控訴人を被申請人として、昭和四一年三月、被控訴人の製造販売している穀類撰別機が控訴人雑賀の有する登録第四一七五五八号特許権、登録第七一九〇三六号実用新案権、登録第七三六八四三号実用新案権を侵害するものであるとの理由で和歌山地方裁判所に対し製造販売禁止等の仮処分命令の申請をし、同裁判所は同年四月四日仮処分決定を発令したこと、被控訴人は、同月一五日同裁判所に対し、仮処分異議申立てをしたこと、控訴人雑賀は、右仮処分決定正本に基づき同年四月六日に仮処分を執行したこと、被控訴人は、仮処分執行の方法に関する異議を申立てたが、一部を認容し、その余は却下する決定がなされ、右決定に対して被控訴人がした即時抗告につき、抗告棄却の決定がなされたこと、控訴人雑賀は、同年三月、右仮処分の本案訴訟を提起したこと(和歌山地方裁判所昭和四一年(ワ)第四一〇号)、右訴訟事件は調停に付され(昭和四一年(ノ)第六号損害賠償請求調停事件)、昭和四一年一〇月二一日、被控訴人は調停調書別紙イ号図面説明書・口号図面説明書に表示するような石抜撰穀機(被控訴人旧製品)を製造販売しないこと、本件に関し、控訴人雑賀は被控訴人に対して損害賠償を請求しないことなどを内容とする調停が成立したこと、また同日、控訴人雑賀代理人宇都呂雄章と被控訴人代理人及川昭二との間で、控訴人雑賀と被控訴人は、右成立した調停条項の趣旨を体し相互に業務上の迷惑となるような宣伝広告などしないことを約束するなどの内容の覚え書を交わしたこと、が認められる。
控訴人らは、右調停条項において被控訴人が製造販売しないと約束した被控訴人旧製品の中には、本件意匠権侵害訴訟の判決に、控訴人意匠権との相違を指摘されている「変形八面形で、正面には内枠に三分した操作区画がなく、背面及び側面が無模様でない」意匠の石抜機も含まれていた旨主張するが、前記調停条項を精査してもそのようなものが含まれていたと認めることはできない。
(二) 控訴人らは、昭和三八年頃から昭和四一年頃にかけての控訴人雑賀と被控訴人との間の紛争の際、各販売店から権利の存在や権利抵触の疑いがある製品について情報を与えてほしいと要請されていたことから、本件で問題とされている文書を配付し、各販売店に対し紛争の要点を通知し、被控訴人製品が侵害品の疑いがあるとの注意を喚起したにすぎず、また控訴人らは販売店への通知にあたり、使用業者の立場を十分考慮して法的措置に訴えることまでは考えておらず、ただ被控訴人製品の使用数量等の連絡を要請した丁寧な文書内容としている旨主張し、控訴人雑賀本人尋問の結果(原審・当審)中には右主張に沿う部分がある。
しかしながら、仮に一部の販売店からそのような要請を受けていたとしても、それによって、多数の販売店に対し、控訴人意匠権を侵害していない製品について侵害しているとの虚偽の事実を陳述流布することが許されないことはいうまでもない上、前記認定の1、2、5の事実に照らせば、本件不正競争行為中、1及び5は、単に侵害の疑いがある旨注意を喚起したに止まるものではなく、販売店に対し、被控訴人製品は控訴人意匠権を侵害している旨断定し、控訴人らの主張を認めないかぎり、販売店に対し直接に権利行使をするつもりであるとの内容の文書を流布し、その旨の陳述をしたものであることは明らかであり、同2は文面上は「本件意匠権を侵害する疑いがあります。」というものであるが、前記5認定のとおり控訴人雑賀が面談して被控訴人製品が控訴人意匠権を侵害するものであることを強調して警告書の送付を予告した直後に送付されたものであり、単なる注意喚起の文書とは認められない。
また、本件不正競争行為中、1及び2が単に被控訴人製品の使用数量等の連絡を要請した文書内容にすぎないものでないことは明らかである。
したがって、控訴人らの右主張は採用できない。
(三) 控訴人らは、被控訴人の方で調停条項の趣旨を無視し、虚偽事実を流布し、控訴人らの名誉、信用を毀損する文書を配付していたのが実態であって、被控訴人の主張は、いわゆる「クリーンハンドの原則」に反するものであり、仮に控訴人らの文書に多少とも不穏当な箇所があったとしても、自己防衛として違法性を阻却されるべきであるし、また、控訴人らの文書により被控訴人が多少とも業務を妨害され損害を被ったとしても、控訴人らにおいても同様に信用を毀損され、更に控訴人らや東洋精米機の業務も妨害された結果、損害を被っていること明白であるので、被控訴人の損害は過失相殺されるべきである旨主張する。
(1) 原本の存在及び成立に争いのない乙第六号証の一ないし四によれば、被控訴人は、昭和四一年四月から五月にかけて、その取引先に対し乙第六号証の一ないし四の文書を配付したこと、右文書の内容は主として、控訴人雑賀の被控訴人に対する前記(一)に認定の断行の仮処分の不当性や被控訴人の撰穀機が控訴人雑賀の有する特許権を侵害するものではないことを訴えるとともに、仮処分異議手続の状況を述べたものであることが認められるところ、右文書には必ずしも適切ではない表現部分が見られなくはないが、これが前記調停条項に違反するものであるとか、虚偽事実を流布するものであるとまでは認め難く、前記認定の本件不正競争行為は被控訴人の右文書配付行為から約八年も経過していることをも考慮すると、被控訴人の右文書配付行為があったことをもって、本件不正競争行為が正当化されるものということはできないし、控訴人らの責任の程度が減少されるものということもできない。
(2) 前記乙第三六号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証ないし乙第一一号証、成立に争いのない乙第一五号証、乙第一六号証、乙第一七号証の一、二、乙第一八号証によれば、次の事実が認められる。
<1> 昭和四九年二月、被控訴人は取引先に対し、前記四1認定の文書に対抗するものとして、被控訴人及び丸七商事が製造販売している石抜撰穀機は、被控訴人の有する意匠登録第二四三三二一号意匠権に基づくものであって、控訴人意匠権とは全く別個のものであり、控訴人意匠権を侵害するものではないことを述べるとともに、控訴人財団等に対して営業妨害禁止等の訴訟を提起すべく準備中であること、仮に各位に損害が及ぶようなことがあった場合には被控訴人及び丸七商事において全責任を負うことを約束し、協力、支援を伝える文書(乙第九号証)を配付した。
<2> 昭和四九年三月、被控訴人は取引先に対し、前記四6認定の読売新聞に写真掲載されている被控訴人の撰穀機は昭和四一年以降製造販売しておらず、現在販売しているものとは関係のないものであること、控訴人雑賀が偽りの発表を新聞を通じて被控訴人の営業を妨害する意図に基づくものであることなどを伝える文書(乙第一〇号証)を配付した。
<3> 昭和五〇年六月、被控訴人は取引先に対し、控訴人らの被控訴人及びその代理店・取引先に対する文書の発送・電話・訪問等による各種営業妨害行為について、その概略と今後の方針についてお知らせするとして、控訴人雑賀らの意図した営業妨害の最も大きな狙いは自己保有の工業所有権を真正に保持するためでなく、工業所有権侵害に名を借り、被控訴人の得意先に不安と混乱とを発生せしめ、そのことにより何らかの目的を達成しようとするところにあり、控訴人雑賀らの権利悪用は表面上一見巧妙には見えるが工業所有権の適正行使というに値しない児戯にひとしいもので根拠薄弱である旨などを記載した文書(乙第一五号証)を配付した。
<4> 昭和五〇年一〇月、被控訴人は取引先に対し、マルシチ石抜撰穀機を業務用として使用している高垣米穀店(田辺市)が控訴人雑賀を相手方として「マルシチ石抜撰穀機を精米業務に使用する行為を妨害してはならない」という仮処分を申請していたところ、田辺簡易裁判所でその旨の仮処分決定が発令されたことなどを報告する文書(乙第一六号証)を配付した。
<5> 昭和五〇年一二月、被控訴人は取引先に対し、控訴人財団の被控訴人及び丸七商事に対する特許第四〇〇五四〇号の専用実施権に基づくマルシチ石抜撰穀機の製造販売等禁止の仮処分決定(同年一一月五日付け)に関して、被控訴人側の反論を記載した文書(乙第一一号証)を配付した。
<6> 昭和五二年五月、被控訴人は取引先に対し、控訴人らが同年四月に被控訴人の取引先に配付した文書に反駁する内容の文書(乙第一七号証の一、二)を配付した。
<7> 昭和五二年一二月、被控訴人は取引先に対し、被控訴人と丸七商事の取扱製品であるマルシチ石抜撰穀機の特許出願について出願公告されたことを報告するとともに、被控訴人の製品は控訴人雑賀の工業所有権を侵害しているという控訴人雑賀の言い分が根拠のないことは明らかであることなど記載した文書(乙第一八号証)を配付した。
ところで、これら被控訴人の取引先に対する文書には一部控訴人らを感情的に非難する部分において不適切な点があるが、右文書の内容及び配付時期からいって、控訴人らが本件不正競争行為をはじめとして、被控訴人の製造販売にかかる石抜撰穀機が特許権等の工業所有権を侵害するものであるなどとして被控訴人を非難する文書を被控訴人の取引先等に配付したことを発端として、被控訴人において防御、反論のため対抗措置として右文書を配付したものと認められ、本件不正競争行為の態様、被控訴人の右文書配付によって控訴人らの名誉、信用が特に毀損されたものと認めるべき証拠はないことを併せ考えると、前記覚え書による約束を考慮に入れても、被控訴人の前記文書における不適切な点が、控訴人らの本件不正競争行為の違法性を阻却させたり、また、その責任の程度を減少(過失相殺)させるものとまでは認め難い。
(3) 原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証によれば、被控訴人は、和歌山県知事大橋正雄宛に昭和四九年二月一五日付け内容証明郵便を送付したこと、右郵便の内容は、前記四1認定の文書には社団法人発明協会和歌山県支部長、和歌山県知事大橋正雄名義の「財団法人雑賀技術研究所概要」と題する同年一月二一日付け文書の写しが添付されていたことから、前記四1認定の文書が被控訴人や代理店の営業を妨害するものであることを述べるとともに、そのようなことを承知しているかどうかなどの抗議をしたものであることが認められるが、被控訴人の右郵便の送付によって、控訴人らの名誉、信用が毀損されたものとまでは認められない。
以上のとおりであって、控訴人らの前記主張は採用できない。
(四) 控訴人らは、被控訴人は控訴人らが保有したり管理したりしている工業所有権を侵害しており、控訴人らが被控訴人に対して行った警告書その他の文書発信行為は、被控訴人の工業所有権侵害行為に対する侵害排除の一環として行っているものであって、被控訴人が、控訴人財団から提起された東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第一〇二九六号事件(別件訴訟)において敗訴しているのがその一例であり、右事件の対象物件は本件で被控訴人と控訴人らとの間で問題となっている被控訴人製品と同様被控訴人の製造販売にかかる製品であるから、被控訴人の権利侵害は明らかであり、控訴人らの当該行為は正当な権利行使として当然容認されるものであって、何らの権利侵害もしていない旨宣伝し、控訴人らを攻撃する被控訴人の行為こそ、虚偽事実の陳述であり、過失相殺の対象とすべきである旨主張する。
被控訴人が、控訴人財団から提起された別件訴訟で敗訴したことは、当事者間に争いがない。
しかしながら、本訴は、控訴人らが被控訴人の取引先に対し、被控訴人製品が控訴人意匠権を侵害するものではないのに侵害する旨流布陳述して、被控訴人の営業上の利益を害したことを根拠とするものであり、また、本件不正競争行為にかかる文書配付当時、控訴人財団は別件訴訟における請求を根拠づける特許第四〇〇五四〇号の専用実施権の設定を受けていなかったのであり、控訴人らにおいて第三者の権利関係に容喙するはずもなく、またその資格もなかったのであって、右文書配付後に右専用実施権を取得し、別件訴訟において被控訴人が敗訴したからといって、控訴人らの本件不正競争行為が正当な権利行使として容認されるものでないことは明らかである。また、被控訴人の行為に過失相殺すべき事情の存しないことは前記説示のとおりである。
したがって、控訴人らの右主張は採用できない。」
10 同九四頁九行目及び一一行目の「証人隆敏夫」の次に、「(原審)」を加える。
11 同一〇四頁五行目の「金六〇〇万円」を「金五〇〇万円」と改め、同頁七行ないし一〇五頁一行を削る。
12 同一〇五頁二行目の「合計六二八万〇五〇〇円」を「合計五二八万〇五〇〇円」と改める。
二 よって、被控訴人の本訴請求は、金五二八万〇五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年三月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九三条一項、九二条本文、八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)